<第六章 谷本頭取の時代>
クーデター未遂事件(12)
約束の日、上京した竹下は銀行協会の会合を終えて、午後3時少し過ぎ首都圏本部に谷本を訪ねて来た。秘書がお茶を運び退出するのを見計らって、谷本は、
「一昨日の話の続きになるけれど、笹川常務は植木頭取の病状は回復に向かっていると言っているが、どうも秘書室長の話を聞くと治療を受けているものの病状はあまり良くなっていないらしい。そのため後継を誰にするかを笹川常務と二人きりで話をしている様子だった」
と言っていた。それから少し間をおいて、
「笹川常務は僕には『竹下君が頭取候補』と言っていたが、君にそれを匂わすような話はあったかね」
と聞いた。竹下は、
「いいえ そんな話は何も聞いていません。大事な話ですから後継を決めるとなれば個別に呼んで話をする筈ですが、そのようなことは一切ありませんでした」
と谷本の顔をじっと見つめながら話した。
谷本は、
「そうだと思うよ。最初から君を頭取候補にしてはいなかったと思うよ。恐らく僕と竹下常務との関係を知っているから、竹下君を頭取候補の一人に仕立てた場合、僕がどのような反応を示すかを見るためジャブを出してきたのではと思っている。いずれにせよ、僕には後進に道を譲るためと言って退任を迫り、君には頭取候補であったが女性問題が浮上したので役員も辞めてもらうという筋書きだけは出来ているような気がする」
と述べ、続けて、
「どうも植木頭取は病状が悪化してきているのを自覚して、目障りな我々を早く辞めさせたいと思っているに違いないと思う。そうすると昨年植木頭取交代の話し合いに加わった三人も、いずれ退任を迫られるかもしれんねぇ」
と真剣な顔で竹下を見た。
竹下は、
「植木頭取になって18年近くなり、長すぎると思いますよ。私は10年で交代すべきではないかと思っています。もう植木頭取は引退すべきだと思いませんか。昨年『頭取交代』について話し合いをしましたが、たまたま谷本専務の留任が決まって表面上は何事もなかったことになりました。しかし今回は違います。具体的に退任を迫ってきていますから、早いうちにこちらから手を打っておかないと後手に廻ることになります。何か良い手立てはありませんか」
と、すかさず言った。
谷本は、
「昨年話し合ったように、取締役15名のうち8名以上を確保出来れば、役員選任の動議を提出して勝つことができる。竹下常務どうかね、8名を確保できる見通しはあるかねえ」
と訊いて来た。
竹下は、
「そうですねぇ、谷本専務と私を入れた組合出身の役員4名で計5名です。残り3名を確保すればいいわけですよね」
と相槌を求めるように言った。
「この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません」
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